番組の中で、いつもニコニコしていたり決して取り乱さないといったイメージのある刑事コロンボ。
そんなコロンボが犯人に対して怒る場面がいくつかあります。
声を荒らげる、きつい物言いをするといったことですね。
そんなわけで今回は、温和なイメージのあるコロンボ警部が怒るエピソードについてです。
「いやぁ、アレを見たときは、あたしも驚きました!」と…コロンボが言いそうなセリフですが、正直僕も、あの場面を見たときは驚きでした。
クライマックスで犯人に対しての表情に笑顔を交えず淡々と話すことはあっても、きつい言い方をしたり怒りをあらわにするなんて、今までは考えられませんでしたから。
コロンボ警部が怒る話
知る限りでは、その希少なシーンがあるエピソードは3つ。
放送順に言うと、
- 殺人処方箋
- 溶ける糸
- 自縛の紐
ですね。
わざと怒ってみせて相手を揺さぶり反応を見る「殺人処方箋」
殺人処方箋と言うと、刑事コロンボの第1回目のお話ですよ!
この回の犯人は精神科医のレイ・フレミング。
自分の患者だった大部屋女優のジョーン・ハドソンとの浮気を理由に資産家の奥さんから離婚を迫られたフレミング医師が、奥さんを殺すというお話です。
愛人のジョーンは奥さんに変装してフレミング医師と飛行機に乗り、離陸前に大喧嘩することでまだ奥さんが生きているという工作をします。
つまりジョーンも共犯者というわけですね。
コロンボはそこに目をつけ、彼女を揺さぶります。
最初はいつもながらの穏やかな言い方ながら、そのうち敬語も使わず徐々になれなれしい口調になっていくんですね。
ジョーンを精神的に追い込み、やがて強い口調で問い詰めます。
「奥さんが死んだとき、あんたも現場にいたんだ!」
「彼といっしょに計画を立て、実行したんだろ!?」
「あんたが殺したもおんなじだ!」
こういう強く当たって自白させるのは昔ながらの刑事の手口ですね。おそらく彼女を自白に追い込むためにカマをかけてると思えますが、この殺人処方箋はまだシリーズ化すると決まっていない段階での単発作品です。
なのでコロンボのキャラクターもまだ確立していないから普通に怒ったり怒鳴ったりしたのかもしれません。
僕はこの話を、かなりシリーズを見続けた後に観たので、怒鳴るコロンボには驚きました。
嫌悪感をあらわにして本当に怒りを爆発させる「溶ける糸」
犯人は心臓外科医のバリー・メイフィールド。
心臓弁膜手術を受けないといけない共同研究者のハイデマン医師の手術に溶ける糸を使って、数日後には彼が自然死に見えるよう細工します。
そしてそれに気づいた看護師のシャロンを殺し、さらに参考人まで殺します。
自分の野望のために他人を殺していくメイフィールドに、コロンボはあからさまに怒りをぶつけるという、シリーズ中でもかなり珍しい回です。
溶ける糸と本来心臓手術に使う糸との違いを調べてメイフィールドに持論をぶつけるコロンボ。対してメイフィールドはコロンボの説を大笑いしながら否定します。
するとコロンボはデスクの上にあった水差しをドン!と机上に叩きつけ、怒鳴ります。
「あたしゃね、あんたがシャロンを殺したと思ってる!そしてハイデマン先生をも殺そうとしてると!」
そして、
「ハイデマン医師が死んだら検死解剖で、単なる心臓発作か糸のためかを確認するからな」
と脅すように言って部屋を出ていくんです。
相手が煙たがったり逆ギレした場合は反対に冷静に話すコロンボも、大笑いされると「なんだその態度は!」とばかりに怒り爆発といったトコでしょうか。
この回は早くも途中から「いや、そうは言ってないよ」とか、ずいぶん感情的なセリフになったりしてました。
よっぽど相手が嫌なタイプだったのかもしれません。
イライラをぶつけたり挑発した態度をとる「自縛の紐」
タイトルにある通り、殺した相手にスポーツシューズを履かせ、その縛った靴紐からボロが出るというお話ですね。
犯人はスポーツクラブの経営者、マイロ・ジャナス。
ジャナスの不正を暴こうとしたチェーン店のオーナー、ジーン・スタッフォードを殺害し、コロンボの質問に毎度の犯人同様の言い訳をしてかわします。
そこまではいつもと変わらない温厚な態度のコロンボも、スタッフォードの奥さんがジャナスのせいで自殺未遂したときに怒りまくります。
奥さんが担ぎ込まれた病院で軽く会話した後、待合にいたジャナスに向かって「調子がいいね」と刺々しく言い放ちます。そして、
「奥さんが薬がぶ飲みしたのはおまえさんのせいだよ!それも旦那が死んだのはおまえさんのせいだと思ったからさ!ついでにあたしもそう思ってるよ」
「あんたの6時から9時までのアリバイ調べたがね、成立しないよ!」
と、数人がいる前で怒鳴り散らすんですね。
原音での言い方は乱暴じゃないのかもしれませんが、声を荒らげてることに違いはありません。
ついでにそばにいた人に「あんた、だらしないよ!」と八つ当たりもしていますよ。
普段低姿勢なのに全く珍しいです。
そしてラストシーン。
ジャナスのオフィスで、スタッフォードの靴紐は他人に結ばれたものだということを立証する際に、靴のまま脚をジャナスのデスクに乗っけるんですね。
抗議するジャナスに「すまないがちょっと待っててねえ」と軽く言って、次から次に汚れた靴をデスクに並べるという挑発行為に出ます。
その後も無駄に言い逃れしようとする犯人に、
「あんたしかいないんだよ!前の晩の9時に、あんたひとりだけがあの人が着替えたのを知ってたんだ!」
と、またしても強い口調で言い放ちます。
他にもあった?コロンボが怒る回
と…まあ、上記3作においてかなり感情むき出しのコロンボですが、これって人間として当たり前、犯罪を憎む刑事としても当たり前のことです。
でも原作者のひとり、リチャード・レビンソンはこれらの怒るコロンボについて良く思っていなかったようです。
さて、新・刑事コロンボの中にも怒るシーンがありまして、「奇妙な助っ人」の終盤近くで、マフィアのボス・ヴィンセント・フォテーリに対して「一体どういうわけだ!」と怒鳴ります。
実はこれ、真犯人であるグラハム・マクヴェイを騙すための芝居で、本当に怒ってるわけじゃないんですが、コロンボが声を荒らげるシーンではありますね。
そもそもコロンボが怒るなんてシチュエーションはあまり想像できないことだと思いますが、コロンボ役のピーター・フォークは「もう少しコロンボのこういう一面が出ても悪くはない」という旨の発言をしています。
コロンボって、もっさりした喋り方のイメージがかなり強いですが、そればっかりじゃ物語に起伏を与えられないということにもなりますしね。
コロンボという刑事も、単調でつまらないキャラクターになってしまってたでしょう。